2015/05/31
2015/05/28
George Brandt Bridgman “CONSTRUCTIVE ANATOMY” (1920)
George Brandt Bridgman “CONSTRUCTIVE ANATOMY” 170pp, George B. Bridgman, New York, 1920
アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークで解剖学と人体描写の講師を務めたGeorge Brandt Bridgman(1865-1943)が1920年に自費出版した“CONSTRUCTIVE ANATOMY(構造的解剖学)”。
Bridgmanはエコール・デ・ボザールでJean-Léon Gérôme(1824-1904)とGustave Boulanger(1824-1888)の元で学び、45年間にわたってリーグで芸術家のための解剖学を教えた。美術解剖はボザール留学中に学んだと考えられるが、時代的にはMathias Duval(1844-1907, 在任期間1873-1903, *1)が解剖学を教えていた頃になる。教え子にイラストレーターのNorman Rockwell(1894-1978)、美術解剖教育に関与したAndrew Roomis(1892-1959)、後継者にはRobert Beverly Hale(1901-1985)がいる。
Bridgmanはエコール・デ・ボザールでJean-Léon Gérôme(1824-1904)とGustave Boulanger(1824-1888)の元で学び、45年間にわたってリーグで芸術家のための解剖学を教えた。美術解剖はボザール留学中に学んだと考えられるが、時代的にはMathias Duval(1844-1907, 在任期間1873-1903, *1)が解剖学を教えていた頃になる。教え子にイラストレーターのNorman Rockwell(1894-1978)、美術解剖教育に関与したAndrew Roomis(1892-1959)、後継者にはRobert Beverly Hale(1901-1985)がいる。
本書は解剖学を構造的に把握しようとする試みで、立体的な形状を把握するために、頭部では直方体の枠の中に収めて描いたり、上肢や下肢の筋も角ばった形状で描かれている。手の指の手掌と手背で皺と関節の位置関係が異なることなど、他の美術解剖書には見られないオリジナリティーの高い内容になっている。
解剖学を美術の学生に理解させるために、概念的な形態に置き換えることがこの頃から始まった。
(画像はリプリント版、筆者蔵)
(画像はリプリント版、筆者蔵)
*1: “Figures du corps” p.475, Beaux-Arts de Paris, 2008
2015/05/27
Sarah Simblet “ANATOMY FOR THE ARTIST” (2001)
Sarah Simblet “ANATOMY FOR THE ARTIST” 256pp, DK PUBLISHING, London, 2001
オックスフォード大学のラスキン・スクール・オブ・ドローイングで教鞭をとっているグラフィック・アーティストのSarah Simblet(1972-)による“ANATOMY FOR THE ARTIST”。Simbletは1998年にブリストル大学で博士号を取得している。ドローイングの他に、イギリスの写真家John Davis(1949-)による質の高い写真が用いられている。
図版には調子や印象を整えるための不要な線やブレのあるストロークが含まれており、隅々まで観察して情報を得るような解剖図とは異なる。一部の図はトレーシングペーパーに印刷され、Simbletによる繊細なドローイングが写真の上に重なり、スーパーインポーズの効果をもたらしている。こうした仕掛けのある解剖図は“Anatomical fugitive sheet”とよばれている。特殊な点では、内臓を含む人体図や、脈管・神経の模式図、人体のパーツで構成されたドローイング作品が掲載されている。
写真では、アスリートの写真の他に有名作と同じポーズをしたもの、血管の注型模型と交連骨格の写真がある。骨格の写真では、照明が肩甲骨を透過しており、その薄さが視覚的に確認できる。内臓や脈管の情報は補助知識的で、掲載内容は少ない。
Simbletの作品はRoyal Academyなどに収蔵されている。
(初版、筆者蔵)
(初版、筆者蔵)
2015/05/26
Écorché from nature: attributed to Eugène Simonis (1850)
Écorché from nature: attributed to Eugène Simonis(1850)
Louis Eugène Simonis(1810-1882)はベルギーの彫刻家、ブリュッセル王立芸術大学の教授。ベルギーの描画学校で学んだのち、イタリアへ留学して美術表現を学んだ。
この解剖体から直接型取りされたエコルシェ(筋肉人)はSimonisに属するとされるが、来歴は不明のようである。(*1)Simonisはブリュッセル王立芸術大学において1000にのぼる石膏像のコレクションを蒐集していたとされ、そのうちの一つがこの像であった。
エコルシェの様式に従い、片方の上肢をあげ、体幹側面と腋窩の筋構造が観察できるようになっている。大胸筋と三角筋の情報量が多く、筋束のレリーフが緻密になっている。腹直筋鞘は右側のみを切開している。重力による下腹部の膨張と、上腕三頭筋のたわみが見られる。頸部と近位の上腕に分割線と、瞼などにレタッチが見られる。像の姿勢は、Houdonによるエコルシェと類似性が見られる。
エコルシェの様式に従い、片方の上肢をあげ、体幹側面と腋窩の筋構造が観察できるようになっている。大胸筋と三角筋の情報量が多く、筋束のレリーフが緻密になっている。腹直筋鞘は右側のみを切開している。重力による下腹部の膨張と、上腕三頭筋のたわみが見られる。頸部と近位の上腕に分割線と、瞼などにレタッチが見られる。像の姿勢は、Houdonによるエコルシェと類似性が見られる。
現代でもこの像のトルソーは入手可能で、アメリカのGuist Galleryなどで取り扱われている。
*1: “Figures du corps” pp.250-251, Beaux-arts de Paris, 2008
2015/05/25
Gottfried Bammes “Die Gestalt des Menschen” 6th edition (1989)
Gottfried Bammes “Die Gestalt des Menschen” 6th edition, 473pp, Otto Maier GmbH, Ravensburg, 1989
ドイツの解剖学者、教育者Bammesの”Die Gestalt des Menschen”第6版。いくつか内容が追加されており、とくに脊柱の回旋に関する図が興味深い。そして表紙(カバー欠損)の簡略図においては、関節の形状など要点が的確に描かれており、解剖学を学んでいるとこの図の魅力がよく見えてくる。詳細な内容に加え、図版のオリジナリティーも極めて高い良著。
(第6版、筆者蔵)
Walt Reed “THE FIGURE: AN ARTIST’S APPROACH TO DRAWING AND CONSTRUCTION” (1976)
Walt Reed “THE FIGURE: AN ARTIST’S APPROACH TO DRAWING AND CONSTRUCTION” 143pp, Watson-Guptill, New York, 1976
アメリカの美術史家、イラストレーターのWalt Reed (1917-2015)の編集による“THE FIGURE: AN ARTIST’S APPROACH TO DRAWING AND CONSTRUCTION”。人体素描における短時間での構造把握を目的とした本で、短縮法や陰影などの描画法、素描や絵画の有名作の他に解剖学の概説を含む。
人体の構造把握は大きく四部に分かれ、まず円柱のみで構成された概念的な人体図、デッサン人形のような人体図、骨格を透視した人体図、体表から観察した人体図に分かれる。頭部の基本構造は卵形に単純化され、卵に顔や耳を書き込んで短縮法を解説しているページ(p.78)もある。
デッサン人形のような人体図では、上肢は肩関節から開始しており、体表観察的な分割である。円柱の図でも人形の図でも屈曲時に関節が描かれておらず、筋の付着や関節の構造などは省略されている。
解剖図はRicherやVesaliusからの引用、一部の解剖写真についてはThomsonからの引用が見られる。
(初版、東京芸術大学美術解剖学研究室蔵)
2015/05/21
György Fehér/Andreás Szunyoghy “CYCLOPEDIA ANATOMICAE More than 1,500 Illustrations of the Human and Animal Figure for the Artist” (1996 )
György Fehér/Andreás Szunyoghy “CYCLOPEDIA ANATOMICAE_More than 1,500 Illustrations of the Human and Animal Figure for the Artist” 603pp, Black dog & Leventhal Publishers, New York,1996
人体解剖図は上腕骨滑車を下方から見た螺旋構造など詳細な情報もあるが、胸椎が上下逆さまに掲載されていたり、大腿骨の側面観が直線的すぎたり内容に甘さも見られる。しかし、圧倒的なイラスト数は、些細な内容を帳消しにし、創作意欲を掻き立てる効用がある。
(初版、東京芸術大学美術解剖学研究室蔵、山内昭雄元美術解剖学教授寄贈)
biography: http://nevpont.hu/view.php?id=9261
2015/05/19
Burne Hogarth “DYNAMIC FIGURE DRAWING” (1970)
Burne Hogarth “DYNAMIC FIGURE DRAWING” 176pp, Watson-Guptill, NewYork, 1970
アメリカの漫画家、イラストレーター、HogarthによるDYNAMICシリーズの“DYNAMIC FIGURE DRAWING”。漫画のためのポーズとその描き方が掲載されており、体表の構造と起伏に関する解剖学的な情報が書かれている。それらは詳細なものではなく、人体の形を大きくつかむためのもので、概念化された胸郭や骨盤の面の方向や、筋の起伏に関する情報に重点を置いている。図は、体表の起伏を覚え、イメージしながら再構成したような図で、Hogarthの形態把握力の高さが伺える。
解剖学的な情報は、大胸筋や胸鎖乳突筋などの体表に近い筋と、骨では鎖骨、手や足、膝関節などが書かれている。深層の筋や構造に関しては記載がなく、筋走行も描かれてはいるもののボリュームを理解するための補助線といった印象。
特筆すべき情報としては、150pから157pにかけて記載されている短縮法に関するダイアグラムが独創的である。身体各部位の位置をマークして視点の方向へ延長し、それぞれの位置を手がかりに描いていくことによって、様々な角度から見た人体像を描くことができる。これは観察による直感的な短縮法よりも理論的に形態を把握することになるため、教育法としても参考になる。
(第7版、1977年、東京芸術大学美術解剖学研究室蔵)
2015/05/18
William Andrew Loomis "FIGURE DRAWING FOR ALL IT’S WORTH" (1943)
William Andrew Loomis "FIGURE DRAWING FOR ALL IT’S WORTH" 204pp, THE VIKING PRESS, New York, 1943
シカゴのイラストレーターのWilliam Andrew Loomis(1892-1959)による”FIGURE DRAWING FOR ALL IT’S WORTH(邦題「やさしい人物画」)”。人体素描のための技法書だが、運動器など解剖学的な情報を含む。
人体のプロポーションから始まり、運動やポーズ図、筋骨格の図、幾何形体図などの概説を経て、Loomisによる人体素描の作例が掲載されている。作例では、運動をつけたポーズや、固定ポーズなどの全身のほかに頭部や表情があり、Houdonが製作した筋肉人の首像も描かれている。
本書の中でオリジナリティが高い図は、”The mannikin frame”と呼ばれる図で、逆三角形の上肢体に骨格の概念図を足した図で、骨盤がちょうど打楽器のシンバルのような簡略化された形体で捉えられている。解剖図はRicherからの影響が見られる。
人体素描とあるが、描かれた裸婦や肖像画は美術学校の受験向けというよりは商業向けで、ライティングが劇的であったり、ヒールを履いた裸婦が描かれている。
(13版、1971、東京芸術大学美術解剖学研究室蔵)
2015/05/15
Dissection Casts by Eliot Goldfinger
“HUMAN ANATOMY FOR ARTISTS The Elements of Form”の著者Goldfingerによる解剖体より型取りした石膏模型とGoldfinger作の頭部像。
Goldfingerの型取り模型では以下が観察できる。体幹では、皮膚と皮下組織を取り除いた体幹浅層の筋左前面と左後面、大胸筋と三角筋を取り除いた体幹深層の筋左前面と僧帽筋と三角筋を取り除いた後面、上肢帯の骨格と筋を取り除いた胸郭、神経と脈管を取り除いた腋窩。上肢では、浅層の筋、深層の筋と骨間膜、手の浅層。下肢では、浅層の筋、大腿の深層、鼠径部と腹部内臓と骨盤内臓を取り除いた腹壁後面の筋。頚部では浅層の筋と斜角筋隙の神経と 頚動静脈を取り除いた筋の構造。
基本的には筋骨格のみの型取りである。筋のたわみは見られず、ホルマリン固定遺体のような印象。こうした解剖体から型取りした模型は美術解剖の教材でしばしば見られる。
(画像はリンク先より引用)
body part models: http://sculptshop.com/tools-and-supplies-1-888-374-8665.php?p=23
head model: http://sculptshop.com/tools-and-supplies-1-888-374-8665.php?s=482
Dr. Julien Fau “ATLAS DE L’ANATOMIE DES FORMES DU CORPS HUMAIN A L’USAGE DES PEINTERS ET DES SCULPTURES_DEUXIÉME ÉDITION RETOUCHÉE ET AUGMENTÉE” (1866)
Dr. Julien Fau “ATLAS DE L’ANATOMIE DES FORMES DU CORPS HUMAIN A L’USAGE DES PEINTERS ET DES SCULPTURES_DEUXIÉME ÉDITION RETOUCHÉE ET AUGMENTÉE” 44pp. MÉQUIGNON-MARVIS/GERMER BAILLIÈRE, Paris, 1866
フランスの解剖学者Fauによる“ATLAS DE L’ANATOMIE DES FORMES DU CORPS HUMAIN A L’USAGE DES PEINTERS ET DES SCULPTURES(画家と彫刻家のための人体解剖学アトラス)”の改訂第二版。初版(1845)が出版された11年後の1866年にMÉQUIGNON-MARVIS社とGERMER BAILLIÈRE社から出版された。英訳版で追加された図(ラオコーンを除くエコルシェや古典作品、プロポーション図)が含まれていないのと、立位の女性図が変更されている。モノクロ図版。
(第二版、筆者蔵)
Eliot Goldfinger “HUMAN ANATOMY FOR ARTISTS The Elements of Form” (1991)
Eliot Goldfinger “HUMAN ANATOMY FOR ARTISTS The Elements of Form” 348pp, Oxford University Press, Oxford, 1991
イラストレーター、彫刻家、元アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークの講師、Eliot Goldfingerによる“HUMAN ANATOMY FOR ARTISTS The Elements of Form(芸術家のための人体解剖学 形の要素)”。本書は1991年にOxford University Pressより出版された。
骨格、筋に関して網羅的な内容の書籍である。なかでも筋の情報が多く、フットプリントや横断面図、模式図とともに一つ一つの筋が丁寧に描かれている。フットプリント図は骨格上に筋の起始停止をマーキングしてその付着位置を示す図で、横断面図は筋のボリュームと周囲の筋との位置関係の把握に役立つ図である。美術解剖のオーソドックスな内容を、詳細な情報で更新しようとする姿勢が伺える。
(初版、筆者蔵)
2015/05/14
Bruno Lucchesi/Margit Malmstrom “MODELING THE FIGURE IN CLAY_A Sculptor's Guide to Anatomy” (1980)
フィレンツェ大学で助教授(1953-1958)を勤めたアメリカの彫刻家、教育者のBruno Lucchesi(1926-)と、Lucchesiの著作の写真などを手がけたアメリカの写真家Margit Malmstromによる“MODELING THE FIGURE IN CLAY_A Sculptor’s Guide to Anatomy(粘土による人体モデリング 彫刻家のための解剖学の手引き)”。
本書は、塑造のプロセスに解剖学的な情報を加えて解説していく手引き書。針金の芯の上に粘土で骨格を作り、その上に筋や脂肪、皮膚を肉付けして女性のミニチュア像を製作していく。最初は男性像を製作しているのかと思うが、脂肪や皮膚をつけた段階で女性であることがわかり、さらにLucchesiのミニチュア像が出てきて完成した女性像を抱きかかえる。これはギリシャ神話の“Pygmarion”の逸話を引用したのであろう。一連の流れから「内部構造を意識して作ることで彫刻に生命が宿る」というメッセージとストーリーが伝わるが、意外性に富んだ内容で初見は驚かされる。
解剖学的な構造については、小胸筋や菱形筋など深層の筋は省略されている。
(ペーパーバック版、筆者蔵)
2015/05/13
Burne Hogarth “Drawing the Human Head” (1965)
Burne Hogarth “Drawing the Human Head” 158pp, Watson-Guptill, New York,1965
アメリカの漫画家、HogarthによるDynamicシリーズの“Drawing the Human Head”。編集はDonald Holden、デザインはWilliam Harrisによる。本書は頭部に焦点を当てた内容で、Hogarthによる300カットのイラストからなる。頭部を脳頭蓋、下顎、眼窩、鼻などパーツに分けて各論を展開し、巻末には古代ギリシャの彫刻から近代までの頭部の作例を掲載している。
筋骨格の解説は、写実的な図ではなく概念的な形状に置き換えられている。解剖学的情報よりも、形態把握のための回り込みや面が重要視され、矢印とガイドラインによって形の起伏や流れの方向を示している。特殊な内容としては、耳を中心に放射線状に線を引き、頭部を顔面、前頭部、頭頂部、後頭部に区切った横顔の成長解析があげられる。Hogarthの解析によれば、成長するにつれて後頭部の範囲がなくなるように描かれている。これには外後頭隆起や骨化点などの基準が含まれていないが、形態学的に興味深い見方である。
(第10版、東京芸術大学美術解剖学研究室蔵)
2015/05/12
Diana L. Stanley “Anatomy for Artists” (1951)
Diana L. Stanley “Anatomy for Artists” 108p, Pitman Publishing, NewYork, 1951
Mary Norton(1902-1903)による著作の挿絵などを描いたイギリスのイラストレーター、Diana L. Stanleyによる“Anatomy for Artists(芸術家のための解剖学)”。オリジナルは、Pitman Publishing社から1951年に出版されている。非常にオーソドックスな本で、筋骨格の最低限の情報のみ記載されており、網羅的ではない。序文でもっと多くの図を入れたかったとしている。
内容は体幹、頭頸部、上肢、下肢の順で、骨格の図や体表の素描の上に筋や骨のアウトラインを描き込んだ図が掲載されている。体表のスケッチの質は高い。
本書を執筆するにあたって、Stanleyはロイヤルカレッジの外科とセントマリー病院の解剖学研究室で学んでいる。
(Dover版、筆者蔵)
one of work: http://en.wikipedia.org/wiki/The_Borrowers_Afield
2015/05/11
Robert Beverly Hale “DRAWING LESSONS from the GREAT MASTERS” (1964)
Robert Beverly Hale “DRAWING LESSONS from the GREAT MASTERS” 271pp, Watson-Guptill, New York, 1964
アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークで教鞭を執ったHaleによる“DRAWING LESSONS from the GREAT MASTERS(巨匠からの素描レッスン)”。1964年にWatson-Guptill社より出版され、編集にはDonald Holden、デザインにはBetty Binnsが関わった。
本書はレオナルドやミケランジェロ、デューラーなど素描の有名作に描かれた解剖学的構造を記述していく試みである。スーパーインポーズなどによる内部構造の図示はなく、作品上の起伏やくぼみにアルファベットを書き込み、そこがどういった構造による形状かを記述していく。書き込みの多くは体の露出した部分の記述で、時折補助的に衣服や持ち物の記述がなされている。美術作品を解剖学的構造によって解析する試みは、解剖学にはない美術解剖的な視点と言える。
解剖図はVesaliusの“De humani corporis fabrica”(1543)とAlbinusの“Tabulae sceleti et musculorum corporis humani”(1749)から骨格図と筋肉人図が掲載されている。どちらも有名な解剖書だが、Heleは後者を翻訳している。
(第10版、東京芸術大学美術解剖学研究室蔵)
works of Holden: http://www.amazon.com/s?ie=UTF8&page=1&rh=n%3A283155%2Cp_27%3ADonald%20Holden
works of Binns: http://www.amazon.com/Betty-Binns/e/B001KI3UY4/ref=dp_byline_cont_book_1
works of Holden: http://www.amazon.com/s?ie=UTF8&page=1&rh=n%3A283155%2Cp_27%3ADonald%20Holden
works of Binns: http://www.amazon.com/Betty-Binns/e/B001KI3UY4/ref=dp_byline_cont_book_1
2015/05/10
Burne Hogarth "DRAWING DYNAMIC HANDS" (1977)
Burne Hogarth "DRAWING DYNAMIC HANDS" 144pp, Watson-Guptill, New York, 1977
アメリカのイラストレーター、Burne HogarthによるDYNAMICシリーズの"DRAWING DYNAMIC HANDS(動的な手の素描)"(1977)。描画のための手に特化した内容で、手の構造、プロポーション、解剖学、動作、短縮法、(動作の)創出、機能、ジェスチャー、職業、加齢などが掲載されている。顔の描写がほとんどないため、他のHogarthの書籍よりも絵のクセが少なく感じられる。
図はHogarthによるもので、実際の手よりも動的に見えるよう劇的に表現されている。ストロークが起伏や回り込みに沿っているので立体感が把握しやすいが、描かれた凹凸は実際の手よりも強く表現されている。手の姿勢は力んだようなポーズが多い。これは動的な視覚効果を得るためであろう。指背や手掌のしわが省略されていたり実際の手と異なる。指を動かすための前腕の筋構造に関する記載はない。
本書はアメリカン・コミックという美術領域の一つに解剖学的な情報を込めたことが、革新的な点としてあげられる。さらにHogarthの技術と認知度もあいまって生まれた。
2015/05/08
Gottfried Bammes "Die Gestalt des Menschen" (1969)
Gottfried Bammes "Die Gestalt des Menschen" 430pp, Otto Mayer GmbH, Ravensburg, 1969
ドイツの教育者でドレスデン芸術大学の解剖学者Bammes(1924-2007)による"Die Gestalt des Menschen Lehr- und Handbuch der Künstleranatomie(人体の形 美術解剖学の教科書)"。網羅的な美術解剖の書籍で大著である。内容には解剖学的な情報だけでなく、いかにして人体の形状を美術的に捉えるかという試みが含まれ、素描や切り絵、彫刻などの作例などを通して多角的に提示されている。
まず最初に美術のための解剖学の歴史を掲載している。紹介されているものの中にはドイツの美術解剖書も多く、Dr. Wilhelm Burkhard SeilarやT. Brisbane、Segfried Mollierなどの図や、中国の美術解剖書からの図版も掲載されている。後に続く内容の流れとしては、プロポーション、下肢、体幹、上肢、頭部の順に運動と局所解剖的な解説が行われ、最終的に全身の筋骨格の概観を提示する。その時々で裸体写真、巨匠やBammesの作例を見せながら補助的な解説を行っている。
Bammesの解剖学的な図で特徴的なものは、模式図や模型があげられる。骨格をシルエットなど単純化した形態によって解説する図や模型はオリジナリティーにあふれている。Richerの模写はないが、いわゆるRicher's band(大腿筋膜の肥厚部)が描かれている。
まず最初に美術のための解剖学の歴史を掲載している。紹介されているものの中にはドイツの美術解剖書も多く、Dr. Wilhelm Burkhard SeilarやT. Brisbane、Segfried Mollierなどの図や、中国の美術解剖書からの図版も掲載されている。後に続く内容の流れとしては、プロポーション、下肢、体幹、上肢、頭部の順に運動と局所解剖的な解説が行われ、最終的に全身の筋骨格の概観を提示する。その時々で裸体写真、巨匠やBammesの作例を見せながら補助的な解説を行っている。
Bammesの解剖学的な図で特徴的なものは、模式図や模型があげられる。骨格をシルエットなど単純化した形態によって解説する図や模型はオリジナリティーにあふれている。Richerの模写はないが、いわゆるRicher's band(大腿筋膜の肥厚部)が描かれている。
2015/05/07
Gottfried Bammes "The Artist's Guide to Human Anatomy" (2004)
Gottfried Bammes "The Artist's Guide to Human Anatomy" 143pp, Dover, NewYork, 2004
ドレスデン芸術大学教授のGottfried Bammes(1924-2007)による "The Artist's Guide to Human Anatomy(人体解剖学の芸術家のための手引き)" 。オリジナルは1990年にOtto Maier GmbHから出版された"Studien zur Gestalt des Menschen"。本書の翻訳はJudith Haywardが行った。Bammesは1957年にドレスデン工科大学で美術のための解剖学の博士号を取得し、その後ロシアのレーピン研究所などヨーロッパ各地で教鞭を執った。1895年には解剖学会の名誉教授に就任している。
本書はBammesの考案した教育法の成果発表と言った内容で、それに基づいて制作された教え子達の素描が掲載されている。そのため、解剖学的情報は体表から観察出来る骨格や筋など形態把握のためのもので、分解骨や筋に関する記述はない。骨格は構造を多面体や球に置き換えて教えられていたことが図から推測出来る。単純形態の組み合わせによる形態把握はBridgemanにも見られる。解剖学のような形態把握の他に、短時間で雰囲気を捉えたような素描やシルエット図も掲載され、学生の多様性と表現の幅に対応する姿勢が伺える。
(リプリント版、筆者蔵)
本書はBammesの考案した教育法の成果発表と言った内容で、それに基づいて制作された教え子達の素描が掲載されている。そのため、解剖学的情報は体表から観察出来る骨格や筋など形態把握のためのもので、分解骨や筋に関する記述はない。骨格は構造を多面体や球に置き換えて教えられていたことが図から推測出来る。単純形態の組み合わせによる形態把握はBridgemanにも見られる。解剖学のような形態把握の他に、短時間で雰囲気を捉えたような素描やシルエット図も掲載され、学生の多様性と表現の幅に対応する姿勢が伺える。
(リプリント版、筆者蔵)
Walter Thomas Foster "THE INFLUENCE OF BONES AND MUSCLES ON FORM" (1931)
Walter Thomas Foster "THE INFLUENCE OF BONES AND MUSCLES ON FORM" 50pp, Dover, NewYork, 1931
アメリカの漫画家、商業画家であったWalter Thomas Foster(1891-1981)による"THE INFLUENCE OF BONES AND MUSCLES ON FORM(骨と筋が形態に及ぼす影響)"。Fosterはカリフォルニアで54年に渡り"How to~"シリーズの著作を執筆した。
本書はFosterによって描き起こされた図版が用いられている。筋の単体図はRicherからの引用が見られるが、オリジナルよりも線の張力が高く、僧帽筋の起始下端などディティールが変更されている。美術解剖では珍しい咽頭の図では甲状腺の性差が掲載され、スーパーインポーズによる上腕二頭筋の緊張を描いた図では、回外と回内で緊張の程度が変化する二頭筋の外転筋としての働きを示している。50ページと短いが、Richerには含まれない情報を加筆したような内容になっている。
2015/05/05
Fritz Schider "AN ATLAS OF ANATOMY FOR ARTISTS" (1947)
Fritz Schider "AN ATLAS OF ANATOMY FOR ARTISTS" 192pp, Dover, New Yorl, 1947
ドイツの画家でKollmannのアシスタントであったFritz Schider(1846-1907)による "Plastisch-Anatomischer Handatlas für Akademien, Kunstschulen und zum Selbstunterricht"のリプリント版である。本書は1947年にDover Publicationsより出版された。リプリント版は改訂にDr. M. Auerbach、翻訳にはBernard Wolf M.D.が関わり、巻末にルネサンスの素描や解剖図、Muybridgeの写真などを加えている。
図版はSchiderの参加したKollmannの"PLASTISCHE ANATOMIE DES MENSCHLICHEN KÖRPERS"(1886)と同様のものがいくつか使われている。他に運動の図はRicherからの引用が見られる。これらの図は二色刷りで、筋に朱色を乗せているため、オリジナルの図版とかなり違って見える。珍しい点としては頚部や下肢の横断面図が添付され、内部構造の位置関係を把握する手助けとしている。
ちなみに本書はAmazon.co.jpで2013年度アート・デザイン部門(洋書)の書籍で売り上げ一位を記録している。
(リプリント第三版、筆写蔵)
(リプリント第三版、筆写蔵)
Amazon.co.jp ranking 2013: http://gigazine.net/news/20131211-amazon-2013-ranking/
2015/05/04
Paul Richer "Série des athlètes:Virtuti Palma" (1898-1899)
Série des athlètes:Virtuti Palma by Paul Richer, 1898-1899, 55.5 x 26 x 18cm
École des beaux-arts, Paris
この像はRicherがSérie des athlètes(アスリートシリーズ)として1898年から1899年にかけて制作した小彫刻群の一つである。Richerの彫刻や図版は、やや簡略的に描かれながら隅々まで見ても違和感のない自然さを持っているのが特徴で、このVirtuti palmaも全体として自然な印象であるのみでなく、軸足の膝や左前腕の回内など各部位に注目しても形態の流れがしっかりと捉えられている。
Richerは写真を元に図版を描いただけでなく彫刻も制作した。それらは写真をそのまま写すのではなく、経験則に基づいて形態が調整されている。例えば、Richerのエコルシェ像は、モデルの写真と制作時の写真を比較すると、腹部前面のラインがすっきりとしている。この像に関しても同じ姿勢の写真が残っていることから、写真を元に制作したと考えられる。
Tag:
artistic anatomy,
sculpture
2015/05/03
Jean-Galbert Salvage "Écorché of the Borghese Gladiator" (1804)
Écorché of the Borghese Gladiator by Jean-Galbert Salvage, 1804, Plaster, 199 x 150 x 157cm
パリ、エコール・デ・ボザール形態学研究室蔵
Salvage(1770-1813)によって1804年に制作されたこのエコルシェの石膏像は、エコール・デ・ボザールの形態学研究室に収蔵され、校内の劇場型の素描教室に常設されている。教室の対面には原作の実寸大の石膏像が配置され、体表と内部構造の比較を行えるようになっている。
元となった原作は、ルーヴル美術館に収蔵されているギリシャ彫刻、Bolgese Gladiator(ボルゲーゼの拳闘士)である。日本でも美術予備校の教材として石膏製の胸像が使用されているため知名度は高い。ボルゲーゼの拳闘士像は前2世紀ごろのローマンコピー(オリジナルは前1世紀、AgasiasのEpheusの銘あり)で、美術史の有名作としてたびたび取り上げられた。この像も19世紀中期の美術解剖書にたびたび登場する。例えば、Duvalの"PRÉCIS D'ANATOMIE A L'USAGE DES ARTISTES"(1881)やKollmannの"PLASTISCHE ANATOMIE DES MENSCHLICHEN KÖRPERS"(1886)などである。
像の姿勢は、頭部、頚部、体幹、左下肢がほぼ直線的に並んでいる。右足を前方に踏み込み、右手は後ろに引き、左手を90°外転させて目線の先に突き出している。頚部は体幹から左側に強くひねり、胸と右耳が同一平面上にある。エコルシェとしては、腋窩と側方の体幹の構造や右大腿の内側の構造が観察しやすい。
エコルシェ像は、しばしばスーパーインポーズ法によって制作されている。この像もスーパーインポーズ的で、頚部のねじれ(特に胸鎖乳突筋、顎二腹筋)など、表現のために調整された構造が、実際の人体と比較した際に違和感として明らかになっている。この解剖学的な所見は、美術の古典作品に新たな観点を与えてくれる。
元となった原作は、ルーヴル美術館に収蔵されているギリシャ彫刻、Bolgese Gladiator(ボルゲーゼの拳闘士)である。日本でも美術予備校の教材として石膏製の胸像が使用されているため知名度は高い。ボルゲーゼの拳闘士像は前2世紀ごろのローマンコピー(オリジナルは前1世紀、AgasiasのEpheusの銘あり)で、美術史の有名作としてたびたび取り上げられた。この像も19世紀中期の美術解剖書にたびたび登場する。例えば、Duvalの"PRÉCIS D'ANATOMIE A L'USAGE DES ARTISTES"(1881)やKollmannの"PLASTISCHE ANATOMIE DES MENSCHLICHEN KÖRPERS"(1886)などである。
像の姿勢は、頭部、頚部、体幹、左下肢がほぼ直線的に並んでいる。右足を前方に踏み込み、右手は後ろに引き、左手を90°外転させて目線の先に突き出している。頚部は体幹から左側に強くひねり、胸と右耳が同一平面上にある。エコルシェとしては、腋窩と側方の体幹の構造や右大腿の内側の構造が観察しやすい。
エコルシェ像は、しばしばスーパーインポーズ法によって制作されている。この像もスーパーインポーズ的で、頚部のねじれ(特に胸鎖乳突筋、顎二腹筋)など、表現のために調整された構造が、実際の人体と比較した際に違和感として明らかになっている。この解剖学的な所見は、美術の古典作品に新たな観点を与えてくれる。
Tag:
artistic anatomy,
sculpture
2015/05/01
William Rimier "Falling Gladiator" (1861)
Falling Gladiator by William Rimier,1861, 160 x 104.1 x 86.8cm
ニューヨーク・メトロポリタン美術館(ギャラリー700)など
"Art Anatomy"(1877年)の著者William Rimmerによる彫刻"Falling Gladiator"。このライフサイズの像は、美術解剖の著書を出版する16年前の1861年に制作され、ニューヨークのメトロポリタン美術館(ブロンズ像)やアメリカン・アート・ミュージアム(石膏像)などに収蔵されている。Rimmerの図を知っていると意外に感じられるが、表現のクセ(特に頭部)やプロポーションなどが自然である。
像は左にねじれながら大きく弓なりに後傾した姿勢をとる。真上に向かうように屈曲させて背側に向けられた右手は折れた剣を持ち、敗れた拳闘士が崩れゆく一瞬を捉えている。筋の構造観察にも向いており、右上腕から腋窩にかけて、左頚部、左の腹斜筋群のふくらみ、緊張した左大腿、そして背面の筋とエコルシェとしても十分なほど鑑賞のポイントが充実している。この姿勢によって強調された胸部から腹部の正中にかけて観察出来る胸郭と大胸筋、腹直筋がつくる体節のリズムは、ながい進化の歴史を想起させてくれる。
Tag:
artistic anatomy,
sculpture
Summary of the artistic anatomy books: April 2015
1845 Dr. Julien Fau "Atlas de L'Anatomie des Formes du Corps Humain A L'usage des Peinters et des Sculptures"
1848 Dr. Julien Fau/Robert Knox "The Anatomy of External Forms of Man, intended for the use of Artists, Painters and Sculptures by Doctor J. Fau Atlas"
1877 Dr.? William Rimmer "ART ANATOMY"
1881 Dr. Mathias Duval "PRÉCIS D'ANATOMIE A L'USAGE DES ARTISTES"
1911 Edouard Lanteri "Modelling A GUIDE FOR TEACHERS AND STUDENTS VOLUME III"
1922 John C.L. Sparkes "Manual of artistic anatomy for the use of students in art"
1925 Dr. Paul Richer "Nouvelle Anatomie Artistique IV Le nu dans l'Art : Égypte - Chaldée - Assyrie"
1970 Reginald Marsh "ANATOMY FOR ARTISTS"
1975 Joseph Sheppard "ANATOMY A Complete Guide for Artists"
1984 Joseph Sheppard "A Complete Guide to Surface Anatomy: How Bones and Muscles Create the Forms of the Living Figure"
Tag:
artistic anatomy,
bibliography,
summery
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